NO.27 エコロジストの挑戦(4) 「明日の庭」夏の収穫
チェコの友達ディビットの家に泊まったとき、毎朝、食堂のテーブルの上に小さな不揃いのリンゴやトマトや野菜が置いてありました。ディビットはプラハの中心街にほど近い古い天井の高い石造りの建物の3階にお母さんと二人で住んでいました。お母さんに聞いてみると市民農園で野菜や果物をつくっているとのことでした。また、スロバキアの首都プラティスラバにある友人イボーナの家に泊まったときもお母さんのつくってくださる食事の材料はやはり市民農園で収穫されたものでした。日本と同じ大根があって、懐かしく思いました。両国とも元共産圏の国で、配給に頼りきらずに自衛的に食料を確保していたものが現在も続いていると思われます。 いまもカストロ将軍の下で共産主義国であるキューバでは、都市部の市民が自給を目指して、いたるところを野菜畑にしています。ソ連の崩壊とアメリカの経済封鎖により、それまで輸入に頼っていた生活物資や食料を断たれ、生活を自給自足に切り替えざるを得なかったのです。化学肥料も農薬もありません。ゴミを堆肥にし、有機栽培で地元に昔からあった野菜をつくっています。また、植物から自然農薬をつくるだけでなく、人間用の薬まで植物でまかなっています。自分が食べる以上にとれた野菜は売ったり、老人や弱者に分け与えられます。 イギリス、ロンドン北部の私の家のすぐ近くにも、アロットメント(市民農園)があり、よく子どもたちと散歩にゆきました。夜の10時近くまで明るい夏の夕方、夕食後のひとときにこの市民農園をぶらぶら歩いていると、いろんな貰い物をしました。大きなマロー(50cmほども長さのある、ズッキニーのお化けのような縞のある瓜)をいただいて、重たかったのを憶えています。私の見たかぎりでは、市民農園では化学肥料や化学農薬を使っていないようでした。市民農園でとれた野菜も果物も、見てくれは悪いのですが新鮮でとても味は濃く、そのもの本来の味がしました。 日本でもずいぶん都市近郊に市民農園が増えています。農家の高齢化に伴う人手不足や生産緑地という税金対策も寄与していると思います。また、地方では町や村が地域おこしとして、「クラインガルテン」と名をつけ、温泉や宿泊施設と複合させて集客手段としています。 でも私は、もっと身近なところにある土地・・庭、をただ眺めるだけの場所にしておくのはもったいないので、キューバのように野菜を庭に植えたいと思うのです。新鮮で安全な野菜が手に入りにくく、高価であることを考えれば、自分でつくろうと思うわけです。 なぜ庭に野菜を植えるのか?私の経験による結論をまとめてみました
経験による私の結論
1.とれたての野菜を食べられる。
2.栄養価の高い、いちばんおいしい旬の野菜がすぐ手に入る。
3.小さな種から芽が出て、花が咲き、実を結ぶ植物の成長をまぢかで見ていると、太陽、水、土、風などの自然の大切さを知ることができる。
4.野菜を育てることによって人間の五感すべての刺激となり、知らず知らずにストレスが減っていく。
5.自分や家族の口に入る植物を安全にと思うと、害虫と益虫を両方殺してしまう化学農薬をまかなくなる。その結果、人のつくった庭が自然のサイクルに近づき、たくさんの生物に満ちた豊かな庭になる。
6.旬の野菜を食べていると本来の野菜の味がわかり、土を固くする化学肥料ではなく、「うまい野菜」をつくる団粒構造の土づくりに、堆肥や腐葉土が大切な役割をもつことを実感できる。
7.落ち葉は腐葉土に、剪定枝や雑草、さらに生ゴミなどを堆肥にするようになり、ゴミの減量化に貢献できる。
8.庭の土がふかふかになると雨水を溜め込むようになり、土壌流出もなく川の水もきれいになり、海もきれいになる。もちろん、化学農薬と化学肥料を使わないので、土に残留したものが雨で川や海に流れ込むこともなくなり地球を汚さずにすむ。
狭い庭しかない、日本、とくに都会では「日本庭園」に「花の庭」に「野菜の庭」、というようなことはとても無理です。ヒントとしては、イギリスやオーストラリアの家のフロントガーデン(家と道路の間の庭)でしょうか。これを日本の一般的な住宅の庭の大きさとみなし、いかに見映えよく野菜を植えてゆくかを考えます。 私が野菜の庭をつくるときに考えるのは、まず意外性です。クライアントのご家族や、庭を訪れた人は、「きれいな気持ちのよい庭だなあ」と思ってくださり楽しんでくださるのですが・・、しばらくたって「えっ、これって野菜だ!」と気づき、次にもっとよく見て「あれれっ、ニンジンもある、葉っぱもある」といって、必ずといっていいほどニコニコなさいます。考えてみれば、食べ物を目の前にして苦虫をかみつぶしている人ってあまりいませんね。「へーっ、野菜ってきれいなんだ!」みたいな反応があれば大成功です。さらに、つまんで味見をすることも楽しさに加わります。おいしいものを食べている人はみな幸せそうな顔をしていますね。 実際に庭をつくるときには、土をはじめ残材をなるべく出さないようにします。つまりゴミを減らすのです。既存の草木をできるだけ残したり、別の場所に移植したりします。メンテナンスで間引いた植物はポットにうつして見学に来た方に差し上げたり、高齢者施設の園芸療法に使ってもらったりもします。土も腐葉土、クン炭、砂、ゼオライトなどを、庭の状況を見ながら量を加減し加えて土壌改良します。全面スキ取りをしたりして残土をたくさん出すことをしません。 予算的に可能であれば、雨水タンク(200リットルくらい)を設置し雨樋から取水して水撒きに使います。それができないときは大きめの水鉢(リサイクル品でよい)を鎖の竪樋の下に置き、水をためてメダカか金魚を飼います。ボーフラを食べてくれるので蚊の発生を防ぎます。庭に少しでも水があると庭を訪れる生き物がグンと増え、益虫も増えます。例えばカエル、トンボ、トカゲなどです。 地元の植生に合った落葉の果樹も、庭にぜひ欲しいもののひとつです。春の芽吹き、それにつづく花と実の色づき、収穫の喜び、紅葉の美しさと一年間の季節の移り変わりを味わわせてくれます。さらに、夏の日差し除け、冬の陽だまり、春風や秋風の葉ずれの音など、心やすらかな豊かな暮らしをつくり出します。 以上のことをじゅうぶん配慮して慎重に創り上げた野菜の庭は、しだいに土の中の微生物をはじめとする自然のバランスのとれた庭になり、病害虫のひどい被害もなくなり、地球環境にも寄与できる美しい庭となります。
カリフラワー
レタス、マリーゴールド、 コリアンダー、ワイルドセロリ
ワイルドストロベリー
ネギ
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