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NO.32 エコロジストの挑戦(9) 在来種の種を増やしましょう

F1種を植えると・・

F1種というのは今から60年以上前に始まった「緑の革命」に由来しています。高収量のHYV種と呼ばれる米や小麦から始まりました。F1種は一代交配種ともいわれ雑種強勢の原理によって品種改良された優れた種のことです。見栄えもよく、味もよく、収穫期もそろい、なおかつ収量も多いのです。ただ、一代交配種というものは、次世代つまりF2種が、一代目つまりF1種のよい性質を受け継ぐわけではなく、種すらとれないものもあるのです。

ムラサキこのF1種には大量の肥料と殺虫剤が必要です。なぜなら高収量を目的とするために、多潅水と多肥にしなくてはなりません。その結果、多肥のために雑草の生育が早くなり、除草剤が大量に要ります。さらに水と窒素肥料が葉を繁らせ、それを食べて害虫が増えます。そのため、殺虫剤も必要になります。しかし、殺虫剤を撒けば撒くほど生き残りをかけた虫の突然変異が起こりやすくなり、耐性のできた虫が次から次への現れ、新しい殺虫剤も次々と必要になります。しかも、こういった化学肥料や化学農薬は高価です。こうしてF1種を植えることにより土壌が汚染され、虫害が増える一方です。同時に土地が集約されて大規模農業となり、貧富の格差がますます広がって、飢餓に苦しむ人が増え続けているのが今の世界の状況です。

 

まず、私たちが在来種を育てることです。

いっぽう、大昔から、ある地域で大事に守り続けられている種を在来種といいます。在来種はその地方の気候風土に合わせて、人の手により選抜され、また、自然による選択(これを突然変異といいます)によって、種子が改良されてきました。その種には長い間の遺伝的な変異の記憶がいっぱい詰まっているので、旱魃、多雨、冷夏による日照不足などの環境を生き延びられるわけです。これを遺伝的多様性と呼びます。この在来種の中には固定種というものも含まれます。固定種とは別の土地から来た種子だけれどもその土地の気候風土に適応して長い間、在来種のように作られている種のことです。

ところで、現在、この在来種の多くの品種がなくなってきています。その原因は少数の種苗会社で作られた品種の植物が世界中で販売され、栽培されていることと、同一品種を育てるほう業の企業化と大規模化が原因です。


タマノカンアオイ それではどうするか?まず、私達のような普通の人たちが在来種を育てることです。たくさんの人たちが多品種を育てれば育てるほど在来種の種子は残っていくのです。自分の暮らしている地域、地方で昔からある固有の植物を大事に育てて、種子を確実に増やしていくことです。庭の片隅に、畑の一部に、こうした植物を育てて種を取り、また、株分けして、人に差し上げて増やしていくことが在来種を生き延びさせることになります。

私はもう何年も、母の代から庭の木の下にムラサキを植えています。また、タマノカンアオイも自然に生えているのを大事にしています。ムラサキはかつては武蔵野の雑木林によく生えていて、その紫色の太い根を染料や薬品として使いました。7月頃白い小さな花が二つ三つとかたまって茎の先端に2~3ミリのビーズのように光沢のある白い実をたくさんつけます。こぼれ種から、翌年また花を咲かせます。とくに目立つ花ではなく、なーんだこんな花かと思われるような植物です。でも、たくさん取れた種は友人知人に、植えて育ててくださるように頼んで10粒ずつぐらい差し上げています。

 

 

 

地球上の生き物は「運命共同体」なのです。

ギフチョウ

タマノカンアオイも私の家にある多摩丘陵の林に生え、子どもの頃にはごく普通に見られた植物でした。何もかも枯れた明るい冬の林の中で、ひときわ、つやつやとした長ハート型の葉は愛らしいものでした。春には地面すれすれに柿のヘタの様な赤茶色の花をつけます。これもだんだん増えて株が大きくなるので株分けして、コケ玉や草盆栽風に仕立てて、欲しい方に差し上げ、庭の片隅か鉢植えででも増やしていただくようにお願いしています。

ギフチョウ

このように地味で、華やかさのないカンアオイですが、早春にひらひらと飛ぶ美しいギフチョウの食草です。つまりカンアオイがないとギフチョウの幼虫は食べ物がなくなってしまうということです。ついでですが、日本の国蝶、オオムラサキの幼虫はエノキなしでは育ちません。

このように一見何の役にも立たない、美しくもない植物を思われているようなものでも、かならず何かの役目があるということなのです。地球上に生きているすべての生物は、目に見えない微生物から始まって、植物、動物、人と、どこかでつながっています。どのひとつがかけても、めぐりめぐって地球のいのちを縮めます。この地球上にしか生きてゆけない生き物は運命共同体なのです。長い長い地球の歴史上、こんなに生物の多様性がなくなって、植物、動物の種の数が減っているのは大変なことなのです。

日本のレッドデータブックにのる絶滅危惧種の植物はどんどん増えています。ぜひみなさんも、地元の植物園、図書館の本、インターネットなどから、自分の住んでいるところの植物で、近頃見ないなーと思われる植物を探して、庭の片隅に植えてやって少しずつ増やしてください。

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