静水舎 一級建築士事務所
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千葉県 北国分子育てコミュニティセンターさかえ第2風の谷保育園

木造園舎

「伝統木構造をベースに自然と共生」

 

日本人が長年にわたって培ってきた自然観から導き出される生活とは、シンプルライフであり、本当に良いものを大事に長く使うことです。足るを知り、楽しく生き、助け合うことが日本人の生活の精神ではないでしょうか。日本人は自然や伝統の中から必要なものを探し出し、新しいものづくりをすることが得意です。このようなことを考えながら風の谷保育園の設計を進めました。

 

園舎は木造とすることが決まっていて、師である増田先生と一緒に仕事をするのは4度目になります。増田先生が提唱する新伝統木構造とは、細い材料をうまく組み合わせて建物を建築するもので、大工さんの経験と複雑な構造計算が必要になります。増田先生なくして園の完成はありえませんでした。

 

自然素材の「木」を使った建物は、ぬくもりややすらぎがあります。木造建築は、建築上の強度、耐久性、耐朽性、感触、視覚、調湿性、吸音性などに優れた性質を有しています。木は身体の発育促進や精神的成長の助長、潜在能力の発掘に大きく寄与し、また自然の木が持つ芳香物質がアレルギーや過敏性の子どもをやさしく包み込みます。乳幼児が生活する場として、木造の園舎は最適なのではないでしょうか。

 

設計が終わった段階では、積算会社や工務店が木造建築物の積算ができず、積算できる方を探すのに苦労しました。純木造建築物の数量計算を行える積算士がおらず、木造建築に詳しい大工さんに数量積算をお願いしました。その数量を材木屋さんに問い合わせて材木の見積もりを取りましたが、高額になってしまいました。材木の値入れの場合、例えば木曽ヒノキは建設物価としては「ただのヒノキ」として扱われ、産地も問われません。そのため、木曽ヒノキと「ただのヒノキ」の値段が乖離してしまうのです。そこで南木曽木材産業(株)の南木曽柴原薫さんに相談したところ、「一般的な木材屋さんよりも安くなるはず」とのことでした。そこで市にお願いして、材木は施主が支給する方法を認めていただきました。その条件は、補助金を受けている事業であるため、材木の荷出しと荷受けで、種類・数量・含水率・サイズ・使用箇所などを全て写真撮影し、リスト化して市に提出することでした。

 

風の谷保育園は、伝統的な純木造の建築物であり、土地のポテンシャルを引き出して自然エネルギーとして活用しています。井戸ポンプを設置して池やビオトープに給水したり、井戸水を利用したミスト冷却設備を備えています。下窓から欄間に、さらに天窓へと続く自然な通風を促しています。南面の窓の上にはヘチマによる緑のカーテンを設けて夏の日差しを遮へいしています。効率の良い太陽熱温水器による給湯や国産材ペレットストーブによる暖房など、消費エネルギーの削減に努めています。

 

子どもの安全・安心を考え、左官材料や塗装材料、壁紙用糊、木部接着部などには極力TVOCの出ないものを使用しました。塗装は内部床などに米ぬかオイル、水周りは液体ガラス塗料、壁は左官漆喰薄塗りにして、外部のウッドデッキには天然由来の安全な防腐剤を塗布しました。

 

建物を長持ちさせる工夫として、耐圧版の上に独立基礎を築き、床高を750mmにして床下の通風を良くしています。内部は極力真壁、木部を露出させて木が呼吸できるようにしました。木構造は金物を使わず、継手と仕口、ダボ、込み栓、棹、シャチなど、伝統的な木構法の技術を使っています。

(文:芝 静代)

 

 


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